地図室の中で目眩いを起こしたJに、案内人が気付いた。
「おや、どうなさいましたか?」
「いや、何でもない。しばらくこうしていれば…」
「少しお休みになった方が良いでしょう」
案内人は、〈図書館〉の司書を呼び出した。
「測量師さんを、休憩室にお連れしなさい」
呼び出された司書は、断ろうとするJの口を塞いで強引に休憩室に連れ込んだ。
*
Jは、休憩室のベッドに無理やり押し倒しされた。
「早く、あの玉を返して」と司書が耳元で囁く。眠り姫の声だった。
「どうしてここに君が出てくるんだ?」
眠り姫は、Jのズボンの異様に膨らんでいる部分に手を伸ばした。
「やめろ!」
Jは飛び起きた。
「分かったよ。自分でやるから」
しかし、Jがポケットから取り出したのは助手の一人だった。
「こんにちは。僕は助手の一人です。測量師さんにはハンプティと呼ばれています」
「ふざけないで!」
「分かったよ」
しかし、Jがポケットから取り出したのはもう一人の助手だった。
「こんにちは。僕はもう一人の助手です。測量師さんにはダンプティと呼ばれています」
「いいかげんにして!」
「分かった、分かった」
Jは、ズボンを引き裂きそうな顔をして迫ってくる眠り姫をさえぎって、ポケットをひっくりかえしてさがした。しかし、もう何も出て来ない。
「あれっ? おかしいな…。あっ、それは違う! そこは駄目だって!」
待ちきれずに眠り姫が手を出してきたが、結局、あの玉はどこにもなかった。
「どこに隠したの?」
「どこにも隠した覚えはない」
「とぼけないで!」
すると、助手の一人がこう言った。
「もしかして、玉を捜しているんですか?」
そして、もう一人の助手がこう続けた。
「窮屈だったからポケットの外に出しましたけど」
それを聞いた眠り姫は、頭をかかえた。
――しかし、日が沈みそうなのを見て、眠り姫は手短に語った。
私は邪悪な夢を見ている人物を突き止めました。それは、この城の伯爵だったのです。もう気付いていると思いますが、伯爵は人間ではありません。どんな経緯があったのか、とにかく伯爵は、この空飛ぶ島に棲み付いて、私たち人間を支配しようとたくらんでいるのです。
以前、あなたに会ったときの私は、別の測量師と協力して、この城の中から玉を盗み出した村の娘でした。追い詰められて村の縁から飛び下りたようです。その測量師については、突然姿を消したということしか分かりませんでした。
あの玉についても、詳しいことは分かりませんが、この浮かぶ島を支えている力に関係しているようです。とにかく、伯爵は血眼になってあの玉を捜しています。あの玉が伯爵の手に渡ったら、大変なことになってしまいます。
――眠り姫がそこまで語ったとき、少年たちが飛び込んできた。
「その玉というのは、これですか?」
少年の一人が持っている玉には“城”という文字が浮かびあがっていた。その他の六人の少年も全く同じ玉を持っていた。
「一体、どういうことだ?」
Jは、また目眩いを起こしそうになるのをこらえて、少年たちの話を聞いた。
*
彼らの説明によると、みんな測量師の弟子になって、飛び方を教わったということだが、Jには何のことやらさっぱり分からなかった。
あるとき、学校を抜け出して測量師の後をつけていたら、突然飛び立った測量師のポケットから、何か光るものが落ちてきた。拾ってみたら、この玉だった。みんなで測量師に届けてやろうと相談していたら、女教師に見つかってしまい、そんなことをするととんでもないことになると叱られた。
村中が大騒ぎになって、村長を囲んで大人たちが話し合った結果、この玉のにせものを作って、こっそり城に戻してしまえということになった。七人のうち誰が持って行くかで喧嘩になるといけないので、にせものは七個作った。
*
「じゃあ、君たちが持っているのは、全部にせものなんだね?」
Jが尋ねると、少年の一人は冷静にこう言った。
「何個もあると、にせものだとばれるんじゃないかと言ったのですが…」
「本物はどこにある?」
「粉々に砕いて村の外に捨てました。今ごろは海の底に沈んでいるはずです」
Jは、しばらく考えていたが、何かひらめいたようだ。
「よし。こうしよう」
*
村に帰る二人の助手と少年たちを見送った後、Jは夕日にかざして玉を眺めていた。
「うまくいくかしら」
不安そうにこう言う眠り姫に、Jは答えた。
「こうなったら、やってみるしかないだろう」
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