むかし、ある村に、貧しい樵の夫婦がいました。この夫婦には、こどもが二人いました。男の子の名はヘンゼル、女の子の名はグレーテルといいました。ほかにもきょうだいがいたのですが、みんな大きくなる前に神に召されたという話です。
ある晩、ヘンゼルが眠れずにいると、とても恐ろしい話し声が聞こえてきました。両親が、また子供たちを森に置き去りにしようと相談していたのです。賢いヘンゼルは、夜が明ける前に、すっかり準備を整えました。気立ての良いグレーテルは、何も知らずに穏やかな寝息を立てています。
朝になると、父親が、今日はみんなで森にピクニックに行こうと言いだして、母親が、お弁当を作りはじめました。ヘンゼルは喜ぶふりをしましたが、グレーテルは本当に喜んでいました。
(中略)
ヘンゼルとグレーテルが森の奥で昼寝をしている間に、両親はこっそり家に帰ってしまいました。しばらくして目を覚ましたヘンゼルは、とても落ち着いていました。来るときにポケットの中の小石を落として目印にしておいたのです。ところが、さがしても、さがしても、小石がひとつも見つかりません。ヘンゼルは大声で叫びました。
「なぜなんだーっ!」
その声に驚いて、グレーテルが目を覚ましました。グレーテルは目をこすりながら、「こびとさんたちがびっくりして逃げちゃった」と言っています。どうやら、夢を見ていたようです。ヘンゼルが、ゆうべ両親がひそひそと話しているのを聞いたことと、今日ここまで来る道にこっそり小石を落としておいたことを話すと、グレーテルが答えました。
「その小石だったら、こびとさんたちが拾ってたよ」
死んだはずのきょうだいは、森にすむ七人のこびとたちになっていたのです。こうして、ヘンゼルとグレーテルの、こびとたちを捜しもとめる旅が始まりました。
しばらく歩くと、心のやさしいグレーテルは、あの家で病気でねているおばあさんがいるから、お見舞いに行きたいと言いだしました。ヘンゼルは一緒に行こうと言いましたが、グレーテルはだいじょうぶだからと言って、一人でとことこと歩いて行って、その家に入りました。
いくら待ってもグレーテルが出て来ないので、心配になったヘンゼルがその家に入ってみました。すると、ベットの上に狼が寝ていて、その大きなおなかの中から、何やら声が聞こえます。ヘンゼルが狼のおなかをハサミで切ると、中から六匹の子ヤギがぞろぞろと出て来ました。家の中をすみずみまで捜しましたが、時計の中にもう一匹の子ヤギがかくれているのがみつかっただけで、とうとうグレーテルは見つかりませんでした。仕方なく、ポケットの中に残っていた小石を狼のおなかに詰め込んで、ヘンゼルはその家を後にしました。
しばらく歩くと、遠くにお菓子でできた家が見えてきました。よく目をこらすと、その家の扉を開けて女の子が入って行くのが見えました。「グレーテルだ!」と思ったヘンゼルは駆け出しました。
ヘンゼルがお菓子の家に駆け込むと、女の子がびっくりして振り向きました。しかし、その顔を見て、ヘンゼルはがっかりしました。グレーテルではありません。女の子の名前をたずねると、「ミチルです」といいました。お兄さんのチルチルと一緒に青い鳥を捜していて、はぐれてしまったのだという話です。
ヘンゼルとミチルは、とてもおなかがへっていたので、二人でお菓子を食べました。しばらくすると、誰かがやってきました。子供をつかまえて食べるという恐ろしい魔女が帰って来たのかもしれません。二人は慌てて地下室に逃げ込みました。
真っ暗な部屋の中で、ヘンゼルとミチルは魔女に見つからないようにしっかりと身を寄せ合っていました。二人はどきどきして何だか妙な気分になってきました。さっき食べた砂糖菓子のせいでしょうか。そういえば、そのお菓子は鳥の形をしていました。
しかし、扉を開けて入ってきたのは、チルチルとグレーテルでした。チルチルとグレーテルは、とてもおなかがへっていたので、二人でお菓子を食べました。しばらくすると、誰かがやってきました。子供をつかまえて食べるという恐ろしい魔女が帰って来たのかもしれません。二人は慌てて地下室に逃げ込みました。
真っ暗な部屋の中で、チルチルとグレーテルは魔女に見つからないようにしっかりと身を寄せ合っていました。二人はどきどきして何だか妙な気分になってきました。さっき食べた砂糖菓子のせいでしょうか。そういえば、そのお菓子は青い色をしていました。
しかし、扉を開けて入ってきたのは、親指小僧と赤頭巾でした。親指小僧と赤頭巾は、とてもおなかがへっていたので、二人でお菓子を食べました。しばらくすると、誰かがやってきました。子供をつかまえて食べるという恐ろしい魔女が帰って来たのかもしれません。二人は慌てて地下室に逃げ込みました。
真っ暗な部屋の中で、親指小僧と赤頭巾は魔女に見つからないようにしっかりと身を寄せ合っていました。二人はどきどきして何だか妙な気分になってきました。さっき食べた砂糖菓子のせいでしょうか。そういえば、そのお菓子は青い色をしていて鳥の形をしていました。
扉を開けて入ってきたのは、今度こそ恐ろしい魔女でした。魔女は、部屋の中の匂いをくんくん嗅いで、こどもたちがお菓子を食べ散らかしたことを知りました。「さてさて、こどもたちは、どこに隠れたのかな?」と、魔女は耳をすましました。どうやら地下室にかくれているようです。
そのとき地下室では、こどもたちが、魔女が帰って来たことにも気付かずに、それぞれの幸せを追い求めるのに夢中になっていました。
そのことに気付いた魔女は、大声でこう一喝しました。
「どいつもこいつも体ばかり成長して、おつむは空っぽのままじゃないか! そんなところで大人のまねごとなんかしてるんじゃないよ!」
すると、地下室から聞こえていた物音がぴたりとやみました。
こどもたちの返事を、魔女は待っています。
「…………」
しかし、みんなは怖くてブルブルふるえているだけで、何も返せずにいるようです。魔女は一段と厳しい表情になり、地下室に向かって、こう叫びました。
「あかん、あかん。『あんたがそれを言うな!』やろ。もういっぺん最初からやり直しや!」
こうして、恐ろしい魔女の、地獄のような特訓が始まりました。
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