伯爵の部屋から追い出されたJと眠り姫は、そのまましばらく呆然としていた。
「こちらへどうぞ」
案内人に誘導されるままに、二人は無言で歩いていった。
外に出て、しばらく歩くと、研究者たちが建物を見上げて何やら叫んでいた。誰かが梯子を持ってきた。「あの窓だ」「早くしろ」などと怒鳴っている。火事でも起きたのか、建物に取り残された人を助けようとしているらしい。梯子に上った男がその窓を開けると、中から泡が吹き出した。泡まみれで助け出された人物は、酔ったようにふらふらしている。あたりにビールの匂いが漂ってきた。
ふいに案内人が立ち止まった。
「ここから先は、村の道です。私はここで失礼します」
城の方へと戻っていく案内人の姿が見えなくなると、眠り姫が口を開いた。
「この話は、これで終わり?」
「どうやら、そうらしい」
「何もできなかったわね」
「そうだね」
村の人々も、この異変に気付いて避難を始めているようだ。普段は決して立ち入ろうとしなかった村の周辺部に向かって、ぞろぞろと歩いている。
突然、眠り姫が叫んだ。
「馬が近づいて来る!」
「馬だって?」
Jは周囲を見回し、耳を澄ましたが、馬などどこにもいない。
「眠ってる私の方よ。とうとう本当に目覚める時が来たんだわ」
「それは、おめでとう」
ほかに何か言おうとしたが、言葉が見つからない。
「そうだ。これを返さなくっちゃ」
眠り姫は身につけていたドングリを外して差し出した。Jは笑ってそれを受け取った。
「君のおかげで、楽しい夢を見ることができたよ」
Jはポケットから取り出したものを、眠り姫に渡した。
「宝の地図だよ」
「ありがとう」
そして、眠り姫は自分の世界へ帰っていった。
いつの間にか、最初に泊まった宿屋の前に来ていた。大きな地鳴りがして、宿屋がぐにゃぐにゃと動いた。振り返ると、城のあった山がなくなっていた。Jは村の縁へと続く道を急いだ。
その道の先には、橋が架かっていた。その橋を渡り始めたが、向こう岸には何もない。この橋は、村の縁から空中に突き出しているのだった。眼下には、一面に海原が広がっている。Jは、鼻歌を歌いながら海に向かって放尿した。
海面には、きらきらと光るものが集まっていた。鼻歌のメロディが微妙に変化して、どこからともなく複雑なコード進行の曲が聞こえてきた。空を飛ぶ子供たちの姿が見えた。
身軽になったJは橋の上から飛び立った。Jは子供たちと何か言葉を交わした後、そのままどこかへ飛び去っていった。
夜明けが近づいたころ、ついに島は海に落ちた。そして、海面に浮かんだ島は、ゆっくりと漂流しはじめた。

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