昔、昔、正直者なのに馬鹿を見ず、畑から出てきた大判小判で小金持ちになり、おまけに小太りになった爺さんがいた。小太りな爺さんは、ポチという犬を飼っていた。ポチも贅沢な餌を毎日たらふく食べていたせいで、小太りになっている。
ある日、隣の貧乏だが親切な爺さんの家の庭にポチがやってきて、こう吠えた。
「爺さん、ワンワン。爺さん、ワンワン」
「おやおや、珍しい。ポチじゃないか」
「大変、ワンワン。大変、ワンワン」
「どうしたんじゃ?」
「病気だ、ワンワン。病気だ、ワンワン」
ポチの後を追って隣の家に行くと、小太りな爺さんが頭から布団をかぶって寝ている。
「どうした、爺さん?」と布団をめくると、おでこに大きな瘤があった。
「何じゃ、それは」
「ガンだそうじゃ」
「ガン?」
「手術をしなければ、あとひと月の命じゃと」
「大判小判を残らず全部? あの青ひげとかいうやつがそう言うたのか」
「死んでしもうたら、元も子もないんでな」
「気でも違うたか。あんな流れ者の言うことを本気にするとは」
「あの薮よりは信用できるぞ」
「そうじゃ、養生所に行って診てもろうたらええ」
するとそこへ、赤ひげが入ってきた。
「悪いが、話は聞かせてもらったよ」
赤ひげは、有無を言わさぬ手早さで瘤を触診した。
「これは、ガンではない。ただのできものだ」
「もうだまされんぞ。婆さんのときもそう言うたではないか」
「ならば、そのもぐりの医者にかかって死ぬがいい」
そう言い置いて、赤ひげは、帰って行った。
翌朝。瘤のできた爺さんは大判小判の入った甕を手押し車に乗せ、青ひげの屋敷に向かっていた。ポチは留守番だ。隣の親切な爺さんが追いかけて来た。
「どうしても行くのか」
「大きなお世話だ」
「小さな親切と言え」
「もうついて来るな」
そんなことを言い合っているうちに、青ひげの屋敷に着いた。
「こんな立派な屋敷が建つんじゃから、腕のいい医者に決まっとる」
瘤のできた爺さんの様子を見に、赤ひげがやって来た。すると留守番のポチが尻尾を振って、こう吠えた。
「爺さん、ワンワン。青ひげ、ワンワン」
「そうか」
赤ひげは、懐から吉備団子を出してポチに与えた。
「それを食ったら、鬼退治に出かけるぞ」
「ここから先は立ち入り禁止だ」
そう言って、青ひげは地下にある手術室の扉を閉めた。一人で取り残された親切な爺さんが、心配そうな顔で廊下を行きつ戻りつしていると、赤ひげがやって来た。ポチと、どういうわけか猿と蜂がお供についている。
「青ひげ、ワンワン。もぐりだ、ワンワン」
ポチが吠えると、手術室の扉が開いて青ひげが顔を出した。「うるさいな。手術の邪魔を…」と言いかけたところを猿がひっかく。「うわっ、何をする!」と顔を覆って叫んでいると、注射器をもって飛んできた蜂が、青ひげの尻にプスリと一刺し。
廊下に倒れた青ひげは、いびきをかきはじめた。赤ひげはずかずかと手術室に入って行く。
「さあ、あとはわしがやろう」
親切な爺さんが恐る恐る入ってみると、赤ひげは、麻酔で眠っている爺さんの瘤にメスを入れていた。
「心配するな。すぐに終わる」
こうして、瘤を取ってもらった爺さんは、ただの小太りな爺さんになり、贅沢な暮らしをやめたおかげで、そのうち元通りの正直な爺さんに戻った。
「青ひげのやつ、顔じゅう傷だらけになって、ほうほうの体で逃げて行きおった」
このように、親切な爺さんは村中に言い触らして歩いた。そして、必ず、こう締めくくるのだった。
「しかし、大判小判を残らず持っていくとは、敵も去るものじゃな」

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