眠り姫は、森への道を歩いていた。どうして、こんなことになってしまったのか。あの娘さえいなければ…。あの娘が王子と結ばれるなんて、絶対に許せない…。
そこまで考えて、眠り姫は、はっとした。いけない。これでは私に呪いをかけた魔女と同じになってしまう。そうなのだ。魔女の呪いのせいで、私は百年間も眠らされていたのだ。
勇敢な若者がやってきて口づけをすると目が覚めるのだと聞かされていたが、眠り姫が目覚めたときには、そんな若者はどこにもいなかった。しかし、流行遅れの服を着ている姿を誰にも見られなかったのはかえって好都合だった。
それから毎日、新しい服を買いに行かせて、古い服は火にくべさせた。今、眠り姫が着ているこの服は、小間使いが灰の中からこっそり拾ったものだ。こんな灰だらけのみすぼらしい服を大事にとっておくなんて…。そのときはそう思ったが、これが役に立った。いや、結局は何の役にも立たなかったのだけれど。
白馬に乗った王子様を待っているだけでは駄目。だから、こっちから派手なパレードをして、美しく着飾った私を見てもらおうと考えたのだった。ところが、あの仕立て屋が持ってきたのは、あのいやらしい布地だった。みんなが、その美しさを絶賛したが、私には見えなかった。お城の中だけだったらいいけれど、街へ出るなんて、とても無理だった。私よりも馬鹿な男たちの、いやらしい視線を浴びるのだと思うと、ぞっとした。
それなのに、あの娘にも、街中の男たちや女たちの目にも、あの布地は見えたのだ。見えなかったのはただ一人、隣の国の王子だけだった。こんな馬鹿な話があるだろうか。まるで悪夢ではないか。そうだ。これは夢に違いない。私はまだ眠っているのだ。
これが夢だったら、何かお告げが隠されているはずだ。「衣装にこだわるのは馬鹿なことだ」とか。ほかにも何かあるかもしれない。「衣装を捨てて裸になれ」とか。そういえば、あの娘が裸で倒れていたのは、このあたりだった。そうだ。ここで裸になって倒れていれば、もう一人の私がやって来て…。
なんだ。こんな簡単なことに今まで気付かなかったなんて。そう思いながら、眠り姫は服を全部脱ぎ捨てて、枯れ葉の上にうつぶせになった。土臭くて寝心地もよくないが、今は我慢するしかない。夢の中でも歩き疲れたのだろうか、まもなく、眠り姫は寝息をたてはじめる。
甘い香りのするふかふかしたものに包まれているのを感じて、眠り姫は目覚めた。すると、そこは、チューリップの花の中だった。
ある日の事でございます。眠り姫が目覚めると、小さな蜘蛛が一匹、(中略)。下人の行方は、誰も知らない。
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また目覚めたとき、もはや眠り姫には自分が何者なのかさえ分からなくなっている。古今東西・老若男女の有名・無名の登場人物が重なり合っているのである。彼女は苛々してこう言った。「ぶっ殺されたい?」

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