語り姫は、王様が王妃と浮気相手の男をその場で処刑した後、毎晩、処女に夜伽をさせては命を奪い続けているという話を父親から聞いた。そして、これは何とかしなければと思った語り姫は自ら進んで王様の元へと赴いたのだった。
毎晩、驚くべき物語を途中まで話して中断すれば、その続きを聞くまでは生かしておこうと考えてくれるだろうという、危うい綱渡りのような作戦だった。しかし、いかに古今東西の物語に通暁している語り姫といえども、こんなことを何年も続けていれば、そのうちに話す材料が切れてしまう。
昼間、王様が政務を執り行っている隙に、語り姫は新しい物語を捜し歩いていた。この国に住む語り部たちの話す物語はとっくに使い果たしてしまったし、図書館にある古びた写本に書かれている話も同様だった。
町には以前のような活気がなくなっていた。若い娘たちがことごとく他国へと逃げてしまったため、若い男たちもその後を追って出て行った。幼い娘のいる家族もいつの間にかいなくなっていた。将来に不安を感じたのだろう。たまに訪れていた旅人たちも、悪い噂を聞いたのか、姿を見せなくなっている。
早く何とかしなければ、この国は滅びてしまうに違いない。こうなったら細かいことにこだわってなどいられない。語り姫は仕方なく、さびれた町の外れにある酒場の中へ入って行った。
酒場の扉を開くと、がらんとした店の奥に主が一人で座って、ひまそうに何やら読んでいた。客が来たのに気付いた主は、目をあげて言った。
「いらっしゃい。御注文は?」
「不眠症になった王様が眠れるようになる物語を」
「ああ、それならちょうど今読んでいたのがいいかな」
店主は開いていた本を見せた。そのページには、東洋の奇怪な文字が縦に並んでいた。
――その夜、語り姫は以下のように語った。
これは、昔のある国での出来事です。宦官たちが見張っていて男が入れる筈のない後宮に住む妃たちが、次々に身ごもってしまうという怪事件が発生しました。
妃たちは、男たちの声はするけれども姿は見えないのだと言って、気味悪がったり色めきたったりしております。そこで宦官は、姿が見えないとはいえ、男が来ていることに間違いはなかろうと、後宮のあたり一面に砂を撒くようにと女官たちに命じました。
さて、その夜、妃たちが裸でくつろいでいると、いつもの男たちの声がやって来ました。妃たちは、その声の主たちと戯れて、やがて呻き声をあげ始めました。
そして、静かになると、急に槍を持った兵卒が踏み込んできました。「足跡があるぞ」「逃がすな」などと叫んで大騒ぎをしたかと思うと、逃げて行く足跡の行方を追って出て行きました。
――ここで、語り姫が話を中断すると、不眠症の王様は姿の見えない男たちがその後どうなったのかを聞いてしまわないうちは安眠できそうもないと思い、語り姫の命を奪うのを先延ばしにした。


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