サンダルを履いた猿が叫んだ。
「また、このエンディングかよ!」
猿は魔法の鼻紙入れを畳んで放り出した。
全てはゲームの中(*1)という展開を抜け抜けとパクってしまえるところが、この残念ミステリの強みである。
(*1)ただし、原典が“It's all in the game”だけだとは限らない。
ヽ大法師が素早く猿の鼻紙入れを拾った。
「よし、俺の番だ」
鼻紙入れが魔法のオープニング曲を奏で始めると、八房が胴長短足の犬刑事に変身した。そして、こう言った。
「まだまだやめませんよ」
猿の家では通夜が始まっていた。犬刑事が隣に座った検死官に小声で言う。
「あたしゃ初めてだよ葬式の前夜祭というのは…。おやつっていうんだっけ?」
すると、検死官の姿をした熊が小声で突っ込んだ。
「おやつじゃなくてお通夜だよ」
犬刑事はガサゴソと音を立てて、ポケットから検死報告書を取り出した。
「何べん読んでも、さっぱりだよ」
「ほら、ここん所をよく見ろよ」
「“Cancer”って何?」
「あんたに分かりやすいように英語で書いたんだけどな…」
「あたしゃ犬ですからね。読んで分かるのは動物と食べ物の名前ぐらいなんだ」
「“Cancer”っていうのは“Crab”のことだよ」
「なんだ、蟹か…。でも、なんでここに蟹が出てくるの?」
「“Cancer”には、もう一つ意味がある。“癌”だ」
「そうだったの? じゃ、“Liver”に“Cancer”があるってことは…」
「肝癌だ。いつ死んでもおかしくない状態だった」
「それじゃ、病死の線もあるってこと?」
「いや、それはない。血液中からは蜂の毒は検出されなかった。つまり、肝臓の正常な部分がちゃんと分解していたということだ」
「でも、付箋には“蜂の毒でショック死”とか書いてただろ?」
「傷口に蜂の毒が残っていたから、蜂に刺されたのは間違いない。それで、その抗体がないかと調べたら、大量に見つかった。ということは、この猿は以前にも蜂に刺されたことがある筈だ。つまり、アレルギーの発作で死に致ったと考えるのが妥当な線なんだよ」
「ふうん…。そいつは知らなかったな」
――さて、どうする?
ヽ大法師は、表示された選択肢の中から、迷わず「蟹を自白させる」を選んだ。(*2)
すると、またもや残念なエンディングが始まり、ヽ大法師は魔法の鼻紙入れを放り出した。犬刑事が八房の姿に戻って吠えた。
「誰か、早くクリアしてくれよ!」
(*2)これは、「証拠よりも自白を重視する」という説に対するあてこすりだと思われる。
〔作者より〕
タイトルの(禁太郎篇)を(ヽ大法師篇)に修正しました。(2009/09/02)

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