ハンプティとダンプティは絵の中のトカゲを交代で見張り続けた。毎日、蜘蛛を捕まえてきて絵の上に放ってやり、それをトカゲが食うのを見ては喜んでいる。これでは見張っているのか飼育しているのか分からないが、とにかくトカゲが絵の中にいることだけは間違いない。
教授はネットカフェが気に入ったらしく、毎日通って調べ物をしたり、必要な品物を追加注文したりしている。
ジョナサンは伯爵の蔵書を礼拝堂の大箱に詰め込んでいった。契約書は、伯爵の署名を入れるだけになっている。注文した商品が城に届くたびに受け取るのもジョナサンの役目だ。布団圧縮袋、掃除機、小型ガス発電機、カセットボンベ、電源コード、カセットコンロ、鉄板、ニンニク、捕虫網…。当初の予定には入っていない品物もあるが、これは教授が追加したのだろう。
こうして、数日が過ぎ、準備はすっかり整った。
額縁から取り出したトカゲの絵を布団圧縮袋に入れ、掃除機のホースをつなぐ。発電機を回して掃除機のスイッチを入れると、袋が萎んでトカゲの絵にぺったりと張りついた。これで、絵の中に潜んでいるトカゲは息ができなくなった筈だ。そのまましばらく掃除機のスイッチを入れたまましておいたが、トカゲは特にもがき苦しむでもなく、普通の絵のようにじっとしている。
その場の全員が、固唾を飲んで見守っている。(ただし、トカゲを除く)
突然、トカゲの頭が布団圧縮袋を突き破った。破れた袋が耳障りな笛の音を奏で始める。トカゲは、掃除機の吸引力に逆らって四肢に力をこめて踏みとどまっている。ダンプティは絵のそばで“攻略本”を開いて、トカゲが出て来るのを待ち構えている。トカゲは、袋にあけた穴の中からゆっくりと体を押し出してくる。トカゲの動きに呼応して、笛の音が怪しく変化する。教授はカセットコンロに点火して鉄板を乗せた。トカゲの前脚が穴の外に出てきた。教授は鉄板に油を引いた。トカゲの後脚も穴の外に出てきた。教授は捕虫網を構えている。どうやら教授はトカゲを捕えて鉄板で焼くつもりのようだな。ジョナサンはそう思いながら、伯爵が現われた場合に備えて、契約書をテーブルの上に広げている。
次の瞬間、トカゲの尻尾が勢いよくホースの中へと吸い込まれて行った。教授は捕虫網を放り出して掃除機の電源を切った。すると、尻尾を失ったトカゲは“攻略本”を目がけて跳躍した。教授は、掃除機の蓋をあけてトカゲの尻尾を取り出した。尻尾はくねくねと動いていたが、焼いた鉄板の上に乗せると大人しくなった。ダンプティは蜥蜴が飛び込んだ“攻略本”をパタンと閉じた。教授はニンニクのみじん切りを蜥蜴の尻尾に振りかけている。どうやら教授は、トカゲの尻尾を焼いて食うつもりのようだな。ジョナサンはそう思った。
結局、伯爵が姿を現わすことはなかった。
トカゲの尻尾を食った教授は、ジョナサンが準備していた契約書に署名すると言い出した。ハンプティとダンプティは、トカゲを閉じ込めた“攻略本”と、“ジョナサンが書いた本”以外をロンドンに送ることに同意すると言った。
こうして、その場の全員の利害が一致した。(ただし、トカゲを除く)


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