唐突にヘルシング教授がオランダ語で話し始めた。
「ところで、あなたは日本に行ったことがありますか?」
ジョナサン(スウィフトの方)が驚いて教授を見ると、「あると答えろ」と顔に書いてあった。そこで、オランダ語で答えた。
「もちろん、ありますとも」
以下、教授とジョナサン(スウィフトの方)は、オランダ語で会話を続ける。
「そうですか。あなたは、日本へ行きましたか。私はまだ行ったことがないのです。あなたは日本のどこへ行きましたか?」
「まず、エドです。それから、ナンガサクというところに行きました」
「そうですか…」
ヘルシング教授は、ここで一冊の本を取り出して、ジョナサン(スウィフトの方)に渡した。
「ナンガサクにはオランダ人がいましたか?」
その本には鉛筆が挿んであり、ページの余白には“あの絵の中のトカゲが怪しい。絶対に、絵の方を見るな”と英語で書いてあった。以下、オランダ語の会話と英語の筆談が同時に進行する。
「いましたよ。デジマというところに」“それは一体どういう意味ですか?”
「デジマとはどんなところですか?」“絵の中のトカゲが、絵の外にいる蜘蛛を食った”
「人工的な島で、建物がぎっしり並んでました」“食った?”
「ほほう、面白い島ですね」“間違いない。あのトカゲはドラキュラ伯爵だ”
オランダ語の会話は、このあたりから次第にでたらめになっていく。
「まるで軍艦のように見えるので、地元の人はグンカンジマと呼んでいました」“なぜ、そう言えるんですか?”
「そこでオランダ人は何をしていましたか?」“この絵の作者はエッシャーというオランダ人だ”
「オランダ人は商売をやっていました。平気で踏絵を踏みながらね」“オランダ人?”
「オランダ人が全部そうだとは限らないでしょう」“そうだ。そして、この本には、伯爵の影響を受けて蝿や蜘蛛を食う患者の話も出てくる”
「あなたのように、ですか?」“それとオランダ人がどうつながるんですか?”
「そうです。私は医者であるけれども、信仰を捨ててはいない」“ドラキュラ伯爵の体にはオランダ人の血も流れているに違いない”
「しかし、踏絵を踏んでも平気な人がいるなんて…」“まあ、オランダ人の血を吸ったとすればですがね。しかし、そうだと仮定すると?”
「まったく考えるだけで恐ろしいことですな」“つまり、十字架なんかでは封印できない!”
「その後の戦争で、空から降ってきたピカドンにやられて、グンカンヤマは海に沈みました」“ああ、何てことだ!”
「ピカドンとは?」“だから、この絵の中のトカゲを何とかしなくてはならん”
「核兵器です。放射能でナンガサクはめちゃめちゃになりました」“丸ごと燃やしてしまいましょう”
「それはひどい話だ」“君は、このような芸術作品を燃やせると思うのか?”
「戦争が終わって、グンカンヤマトは海から引き上げられました」“では、絵の中からトカゲを引きずり出して始末すればいい”
「それから?」“あんた、一休さんか?”
「宇宙へ飛んで行って、放射能除去装置をもらってきました」“そうだ。真空にすればいいんだ!”
「それはどんな機械だね?」“それは今や信仰とは無関係だな。しかし真空をどうやって作る?”
「詳しくは分かりませんが、一種のクリーナーでしょう」“掃除機と布団圧縮袋があれば簡単に作れますよ”
「そのために、よその星まで行くとはね…」“しかし、どうやって手に入れるんだ?”
「古き良きSF漫画ですからね」“通販ですよ、通販!”
「そういえば、今度実写化されるとか聞きましたが」“ここにはテレビもネットもないのに、どうやって?”
「まったく、でたらめな話ですね」“こっちでは無理ですが、あっちの世界なら何でもあるでしょう”
「あの主役はひどいもんです」“しかし、あっちの世界に誰が行けるというんだ?”
「あの役ができるのは…」“ハンプティ・ダンプティですよ”
「私には考えもつかんな」“それだ!”
「やっぱり、僕にも想像できませんね」“さっそく行かせましょう”
教授とジョナサン(スウィフトの方)は、鏡のある部屋から出て行った。壁にかかった絵の中のトカゲは、まだ何も気付いていないようだ。
トカゲの血はオランダ人の血
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