葬儀社の社員の携帯が鳴った。社員は二言三言、言葉を交わして電話を切った。
「受け渡しの準備が整ったそうです」
臼が立ち上がるのを制して蟹が出て行った。
「君たちはここに残ってくれ」
蟹を乗せた遺体搬送車を見送って臼と牛が戻ると、家の中に犬刑事が座っていた。
「蟹さんもずいぶんせっかちな方のようですね」
臼と牛が顔を見合わせている。
「あたしの上司もあんな感じですよ。署に帰ってデスクに着いた途端、『報告書はまだか』ってね…」
「あんた、裏から入ったのか?」
臼が尋ねると、犬刑事は頷いた。
「表からだと、スパイに見つかっちゃいますから」
「スパイ?」
「例の目撃者ですよ。さっき会って話をしてきましたが、たぶん普段から猿さんを見張ってたんでしょう。もちろん蟹さんの指示で」
犬刑事は、乳牛に向かってこう続けた。
「あなたは、それを知ってた筈です。だから、ここへ来るときはいつも裏から入って、帰るときも裏から出ていた」
「驚いたわね…」
今度は、臼に向かって言った。
「いいニュースもあります。猿さんの死因は蜂の毒でした」
「そうだったのか」
「それに、もうひとつ。屋根に付いてた足跡は猿さんの足と一致しました。これで臼さんの容疑はほとんど晴れることになります」
臼は、溜め息を吐いた。
「まだ完全には晴れていないわけだ…」
「そうです。そこで、牛糞燃料のことを知りたいんです」
「蟹さんが戻るまでの間に、なるべく詳しく教えてください」
臼と牛の話を要約すると、以下のようになる。
ある日、急に猿が牛糞固形燃料の商品化を思い立った。臼は、蟹が承知する筈がないからと言って反対したが、なぜか猿は頑固だった。柿の種を焼くときに牛糞固形燃料を使っていたときの経験から、匂いが気にならないことは分かっている。糞だから臭いはずだという世間一般のイメージを覆すためにはどうすればよいかと議論しているうちに臼も次第に乗り気になってきた。実験には牛も喜んで協力してくれた。外見を改良したり、芳香を加えたり、燃焼効率を高めたり、さらに付加価値を高めるアイディアを盛り込んでいった。
試作品は、商品としての魅力が充分あるものになっていった。後は、蟹を説得するだけだ。蟹が反論しそうな点を徹底的に潰していって、最終的には、薪そっくりの外見で、煙がほとんど出ず、そのかわりに防虫効果のある微香が漂うというものになった。これを、屋外での使用に特化した商品として販売する。
臼が、囲炉裏の中から薪を何本か拾い上げた。
「これが、その試作品です」
手渡された犬刑事は匂いを嗅いだ。
「あのときも、この匂いがしていました。それで、分からなくなってしまいました」
ポケットから写真を取り出して二人に見せた。
「この家の軒下にこんな巣がありました。しかし、なぜ、猿さんはスズメバチに刺されたんでしょう?」
そのとき、車の音が聞こえた。遺体搬送車が戻って来たようだ。犬刑事は写真をポケットに入れて、裏口から出て行った。


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