滑って転んだ猿の事件(今さら篇)

 紙コップを持った犬刑事が自分の机に戻って来た。机上には、報告書の束がいくつか乗っている。コーヒーを飲みながら報告書にざっと目を通す。特大の付箋に

要するに、スズメパチの毒によるショック死

と大きく書いてあるのは検死報告書だ。その下の報告書は鑑識からのもので、写真が二枚クリップで止めてある。裏にはそれぞれ別の筆跡で、

屋根の足跡:猿の足型と一致

スズメバチの巣:猿の家の軒下

と記入されていた。紙コップが空になると、犬刑事は写真をポケットに突っ込んで、猿の家へ向かった。

 猿の家では、既に葬儀の準備が始まっていた。開いたままの玄関から中を覗くと、蟹と臼が葬儀社の社員と何か打ち合わせをしている。裏へ回ると、縁側に座って例の細い紙巻き煙草を吸っている乳牛の姿が見えた。犬刑事は引き返して、目撃者の家に行った。

 目撃者の男は、犬刑事を大喜びで迎え入れた。
 「あの臼が、犯人なんでしょう。なぜ逮捕しないんですか?」
 「臼さんは犯人じゃないよ」
 「どうして?」
 「本人がそう言ったから」
 「それを信じたんですか!」
 「まあ、あんたの迷推理よりは信頼できるからね」
 「……」
 その後、目撃者は、実際に見聞きしたことだけを改めて証言した。それは、臼の証言を裏付ける内容だった。

 前足を窓枠に乗せて犬刑事が外を眺めている。
 「ここからは、猿さんの家の裏の方は見えないよね」
 「そうですね」
 「さっき、裏の方で牛さんが煙草を吸っていたよ」
 「何の話ですか?」
 「猿さんちに出入りしてた乳牛、知らないの?」
 「乳牛ですか…。見たことないなあ…」
 「そうか…。ということは…」
 犬刑事は、何やらぶつぶつつぶやき始めた。
 「お役に立てなくて、すみません」
 「いや、大いに参考になりましたよ」
 犬刑事は、何ごとか考えながら窓から離れて部屋を出ようとしたが、ふと、立ち止まった。
 「あんた、警察に通報した?」
 「いいえ」
 「そうだよね。じゃ、誰が通報したんだろう…」

 今さら、そんなこと言ってて、ほんとに大丈夫なのか、この刑事(というか、この話)?

| コメント(0) | トラックバック(0)
WebMoney ぷちカンパ

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://homeposition.net/mt/mt-tb.cgi/147

コメントする

カレンダー

<   2009年8月   >
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          

タグクラウド

Powered by Movable Type 4.261

このページについて

このページは、かみ かずしげが2009年8月29日 05:28に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「滑って転んだ猿の事件(告白篇)」です。

次のブログ記事は「滑って転んだ猿の事件(開発秘話篇)」です。

最近の記事はメインページで、過去の記事はアーカイブで閲覧できます。