犬刑事が応接室から出ると、受け付けの乳牛が帰り支度をしていた。
「あのー、臼さんがよく行く酒場って、どこだか分かります?」
「通り道だから、乗せてってあげるわよ」
「じゃ、遠慮なく」
そんなわけで、犬刑事は乳牛に乗って臼のいる酒場に向かうことになった。
乳牛の背に揺られながら犬刑事が質問している。
「猿さんは、どんな方でしたか」
「そうねえ、次々に面白いことを考えつくアイディアマンって感じだったわね」
「だれかに恨みを買うようなことは」
「さあ…。蟹さんとはよく意見が衝突してたみたいだけど、恨むとか恨まれるとかいうのとは違うかも…」
乳牛はしばらく黙っていたが、話を続けた。
「実は最近、私も新商品の開発に関わってたんですよ」
「ほほう。それはどんな商品ですか」
「牛糞固形燃料」
「牛糞?!」
犬刑事は思わず飛び上がった。
「そんなにびっくりしないでよ。昔は私の糞を燃料にして柿の種を焼いてたんだから」
「なるほど、そうでしたか」
「機械化されて、今ではガスとか電気とか使ってますけどね」
酒場が見えてきた。
「どうも、とても参考になるお話でした」
「今の話は蟹さんには内緒よ」
「これから会う臼さんには?」
「あのひとは、もう知ってるから大丈夫よ」
犬刑事が降りると、乳牛は“猿蟹印の柿の種”を一袋くれた。そして、猿の家のある方向へと歩いて行った。身寄りのない猿のために、これから葬儀の準備をするのだという話だった。
犬刑事は、臼の話はもう聞いたから、このまま乳牛について行った方が良かったかなと思ったが、二つの場所に同時に存在できる設定はミステリでは禁じ手になっている筈なので、大人しく酒場に入って行った。


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