ジョナサンは、しばらく一人で考えていたが、怖い話なんか、全然思い付かない。あきらめて図書室を出ようと扉を開けると、ハンプティとダンプティが並んで立っていた。女装して、無言でこっちを見ている。ジョナサンは、そのまま扉を閉めて元の椅子に戻った。すると、いきなりジャックが飛び込んできた。目は血走り、手には斧を持っている。ジョナサンは思わず叫んだ。
「もう、そのネタはいいですよ!」
「何だ、もうバレてしまったのか…」
ジャックは、残念そうな顔をしていた。
「あんまりこのネタをやってると、モダン・ホラーの王様に呪われますよ」
ジョナサンがこう言うと、ジャックはニヤリと笑った。
「な、やっぱり怖いだろ?」
「ところで、バイロン卿とクレアは?」
「さっき出て行きましたよ。トカゲをもう一回見ようとか言って」
「メアリーは?」
「自分の部屋で何か書いてるようです」
「そうか。君しか残っていなかったとはな…」
「ハンプティとダンプティに女装させたのも無駄になりましたね」
すると、ポリドリは怪訝そうな表情を浮かべた。
「それは一体、何のことだ?」
結局、あの二人が一番怖いというオチなのか、とジョナサンは思った。しかし、本当に怖いオチは、この後に待ち構えている。
その夜、ジョナサンは、メアリーが書きかけている怖い話を読んでみた。
ロバート・ウォルトンという海洋冒険家が、ロンドンからはるばるロシアまでやって来た。彼は、北極探検の夢を実現させようとしているのだ。ペテルブルクからアルハンゲルスクへ行き、そこで船を借りたり乗組員を雇ったりして準備万端整えて、北極海に向けて出航した。
ところで、その頃、ペテルブルクの街には異様な怪物が出現していた。それは、人間の鼻のような姿をした巨大なモンスターだった。そのモンスターは馬車に乗ってアルハンゲルスクへと続く街道を物凄いスピードで走って行った。その馬車を必死で追いかけている一人の男がいた。その男の顔には鼻がなかった。
ウォルトンの船が流氷に取り囲まれて身動きできなくなっていたとき、猛スピードの犬橇が氷原を駆け抜けていった。その犬橇に乗っていたのは例のモンスターだ。翌朝、同じような犬橇が大きな流氷に乗って流れ着いた。その犬橇に乗っていたのは、例の鼻のない男だった。救出して名前を尋ねると、その男は、コワリョフだと名乗った。
これは怖い話じゃなくて、コワリョフの話だよな、とジョナサンは思った。この程度のネタをオチに持ってくる作者の安易な発想が怖い。
しかし、この後ジョナサンの身に降りかかる不幸な出来事を、まだ誰も予想すらしていなかった。(ただし、作者を除く含む)
【修正】(2009/08/11)
この話の続きが予想外の展開になったので、本文の一部を以下のように修正しました。
(ただし、作者を除く)→(ただし、作者を含む)


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