トカゲの尻尾を食ったことで、ヘルシング教授は不死身になったようだ。正確には、ドラキュラ伯爵の一部がヘルシング教授の体内に摂り込まれたわけだが、これによって教授が吸血鬼になったのだとすると、教授の狙いがどこにあるのか全く分からない。
そのことを本人に尋ねてみたところ、ヘルシング教授はこう言い放った。
「狙いじゃと? そんなものはない」
ジョナサンの手元には、ドラキュラ伯爵の署名の入った書類がある。この署名は、もちろんヘルシング教授が書いたものなのだが、伯爵本人の署名と寸分違わないというのは驚くべきことだ。契約内容は伯爵の意思に反したものではなく、名義人も伯爵本人になっているので、文書偽造にはあたらないという妙な理屈だが、実際、形式的には何ら問題はなさそうだ。
そして、伯爵の蔵書についても、伯爵の城から伯爵名義の別荘へ移動するだけなので、窃盗ではないという理屈であるが、これは伯爵本人が現われた場合に破綻するだろう。いや、その場合には、それどころでは済まないのではないかと懸念される。
その鍵を握っているのが、ドラキュラ城に残って“管理”するハンプティとダンプティの二人だ。彼らも、ある意味では不死身の存在であり、鏡の国にも自由に出入りできるのだから、これは適任だと認めるしかない。ただし、どんな行動をとるのか全く予想できないところが不安要因となっている。
こういう状況で、六月三十日の朝を迎え、50個の大きな箱がツガニー人とスロヴァキア人によって予定通りに発送された。
ハンプティとダンプティは、尻尾が元通りになったトカゲに、本の中と絵の中を行ったり来たりする芸を仕込んでいる。
教授は、ネットで取り寄せた大量のニンニクをハンプティとダンプティに渡した。
「これを城の周りの土地に植えて増やすんじゃぞ」
「なるほどね、そういう手もあったか」「ドラキュラ農園のニンニクか!」
何か違うような気もするけど、まあいいだろう。
「じゃ、そろそろわしらも出発するか…」
すると、ジョナサンは、慌てて書斎に入って行った。しばらくして出てきたジョナサンに教授が問いかけた。
「何か忘れ物でもあったかね?」
「はい。手紙を書くのをすっかり忘れてましたよ」
このときに走り書きしたホーキンズへの手紙は、七月二十六日にミナが読むことになる筈だったが、その前にジョナサンの方が先に到着するだろう。
こうして、この話はめでたくハッピー・エンドとなった。(ただし、伯爵を除く)


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