この城には、カレンダーもテレビもラジオも新聞もない。電話もなければネットにつながるIT機器もない。実は、伯爵の城に到着して以来、夢の中で速記文字を使ったもの以外、ジョナサンは日記を書いていない。あまりにも異常な体験をしたため、どれくらいの時間が経過したのか、ジョナサンには分からない。あのときから一ヶ月ぐらい経っているような気もするし、ほんの数日間の出来事だったようにも思える。
ダンプティが床に広げて読んでいる“攻略本”によると、ひげ剃り中に伯爵が鏡に映らないことに気付いたのが五月八日の未明で、その夜には伯爵の戦争体験談を聞かされている。無理やり三通の手紙を書かされたのは五月十二日。しかし、伯爵がジョナサンの手紙を見て破り捨てた五月二十八日の出来事は、かなり現実とは食い違っている。おおよその見当としては、五月末から六月の頭ぐらいだろうか。
沈思黙考していたジョナサンは、急に立ち上がった。
「よし、飯を食おう。腹が減って何も考えられん」
ハンプティ・ダンプティの戦利品を使ってコンビニで食糧などを買い込んで来たジョナサンは、ふとレシートを見て、飛び上がった。
「分かったぞ!」
レシートには、もちろん日時が印字されている。
ジョナサンは、食堂に食べ物と飲み物を運び込み、三人で食事を摂りながら作戦会議を始めた。
「30個の木箱を発送する日まで、まだあと一ヶ月もある。そこで考えたのだが、ここにある本を全部…」
そのとき、外から馬の嘶きが聞こえた。窓から見下ろすと、どうやらこの城に二頭立ての馬車が到着したようだ。
「まさか、伯爵では…!」
慌てて窓の下に身を隠すジョナサン。一瞬、部屋の中に緊張が走ったが、ダンプティが発した一言で、張り詰めた空気が一気にゆるゆるになった。
「今は真っ昼間だよ」
閂を外して大扉を開けると、若い男が立っていた。
「このたびは大変遅くなってしまって本当に申し訳ありません。弁理士のジョナサン・ハーカーです」
これは、いよいよ面倒なことになったなと、ジョナサン(スウィフトの方)は思った。

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