さっさと帰ればいいのに、ジョナサンはまだ伯爵の城にいる。伯爵を鏡に閉じ込めたことで油断したのだろう。一度だけ、ホーキンズのことを思い出して手紙を送ったようだが、伯爵に無理やり書かされた二番目の手紙(「明日出発する」という内容で、日付は六月十九日)を、そのまま別の封筒に入れただけというなおざりなもので、その後は手紙のことなど、すっかり忘れてしまっている。
ジョナサンの“妻”(実はまだ婚約者)であるミナの日記によると、その手紙を転送してもらって読んだのは、七月二十六日。内容は「今帰国の途にたつ」というもので、ミナにとっては、文面の微妙な食い違いは問題ではなく(そもそもそれを知る由もない)、ジョナサンらしくないそっけない書きぶりだったことの方が問題だったようだ。
もしかすると、今ごろジョナサンは帰国の途中で船に乗り、いつものように嵐に見舞われて変てこな島に漂着しているのかもしれず、あるいは夜な夜な現われる三人の若い女たちにたぶらかされ、いまだに城の中にいるのかもしれない。もちろん、ミナはそこまで具体的なことまで書いていないが、漠とした不安をいだいていることは日記の文面から読みとれる。
城に残ったジョナサンは伯爵の書斎にこもって膨大な蔵書を読み耽っていたと考えるのが妥当な線だろう。当然、ジョナサンの日記には、そのことが詳しく記されている筈だが、ブラムの小説とは無関係な記述であるため、ばっさりカットされている。
しかし、ジョナサンは、ミナ宛ての手紙を一通も出さなかったようだ。いくら何でも、婚約者への手紙を忘れてしまうというのは不自然すぎるだろう。後に、ミナと再会した時に、ジョナサンが記憶喪失になっていることも不自然だ。記憶喪失のふりをして、何かを隠していたと考えた方が筋が通る。ジョナサンは、この間、一体何をやっていたのだろうか。


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