扉の把手を回そうとして突然の叫び声で固まったジョナスは、自分が伯爵の服を着ていることに気付いた。
「冬の夜の真白きとき
われはこの歌を歌いてきみを楽します(中略)
そしてなお扉の閉じたるを見て
われは把手(とって)を回し、だが――」長い間があった。
『鏡の国のアリス』(ルイス・キャロル 著/柳瀬尚紀 訳/ちくま文庫)
伯爵の服のポケットから顔を出したゆで卵を、ジョナスはじっと見ていた。
「こんちは」
そう言ったのがハンプティだったかダンプティだったか、ジョナスには区別できない。
「さよなら」
ゆで卵の姿が薄れはじめた。こうなりゃ、当てずっぽうだ。
「ちょっと待ってくれ、ハンプティ」
急に輪郭のはっきりしてきたゆで卵は言った。
「…てことは、あっち側にいるのが、ダンプティだな」
どこか上の空で話すハンプティを机の上に置いて、椅子に座ったジョナスが問いかけている。
「すると、伯爵の服…、いや、僕の服にはダンプティが隠れているんだね?」
「そうそう…。おっ、爺さん、コンビニに入ったぞ」
「君にはそれが分かるのか」
「分かるって、何が?」
「鏡の中の伯爵が見えるのか?」
「鏡の中?」
「そうだよ、伯爵は鏡の中で何をやってる?」
「何を言ってるんだ? ダンプティがいるのは鏡の外だよ」
「ということは、僕は鏡の中に閉じ込められたってことか…」
ジョナスは頭を抱えた。
「どうやったら外に出られるんだ?」
「さあねえ…」
ハンプティは、相変わらず上の空だ。
「おっ、また取りそこなったぞ! この爺さん、面白いな」


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