「何? 原典が届くまで何日か待ってくれじゃと?」
――しかし、ホラー吹き男爵は「事情が変わった」なんて言うこともなく、お構いなしに語り始めた。
耳でか裕二
昔、耳のでかい裕二という男がおった。でかいのは耳だけではなくて、鼻の穴もでかかったそうじゃ。それだけなら別にどうということもない、ちょっと野生味のある顔をした見ようによってはなかなかの好青年だったのじゃが、言うことが妙にでかいということでな。それを物真似の種にして人々を笑わせている芸人がおったそうじゃ。ところがそれを知った裕二という男が本気で怒っておったという噂じゃが、態度がでかい割にケツの穴は小さかったということじゃな。
――ジョナサンが黙っていると、男爵はこう尋ねた。
「どうした。この話、あまり恐くなかったか? じゃ、玉なし裕二の話をしてやろうか…」
「いえ、その話も飽きるほど聞いているので、もう結構です。それに、あんまり恐くもないし…」
「そうか。それじゃ、口曲がり太郎の話なんて、どうじゃろか?」
「恐くもなければ面白くもないですね」
「じゃ、腹切り由紀夫はどうじゃ? これは恐かろう」
「えーっと。この先どうなるのかまだ分かりませんが、どっちにしろ恐くはないです」
「ふん、うまく躱しおったな。それなら、靴下なし純一の話をしようか。靴下はナシでも息子より年下はアリという男でな…」
「そんな話はもうたくさんです」
「なんじゃ、ゴシップ・ホラーはお好みではなかったか」
「私が言っているのは、そういうことではなくて」
「分かっておる。一応、タイトルに合わせて暴言を吐いてみようとしただけじゃ」
「ところで、伯爵は、どこにおいでなのでしょうか」
「おっと、いけない。つい話に夢中になって、すっかり忘れておった。伯爵は、急用で外出しなきゃならんことになったので、くれぐれもジョナサン様によろしくと、このように仰っておられた」
「急用で外出されたのですか。それで、伯爵がお戻りになるのは?」
「さあ。そこまでは聞いておらんが…」
どうもこの男爵の話は信用できないけれども、「伯爵が自由に見てもよいと仰っていた」と太鼓判を捺すので、ジョナサンは伯爵の書斎に入り、書棚に並んだ蔵書を眺めている。有り難いことに、どの本も英語で書かれていた。


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