ジョナサンは日記を書きながら、伯爵の城に到着したときの記憶が曖昧なことに戸惑っている。眠っていたのだろうなんて書いてあるけれども、あのような恐怖を味わいながら一体どうやって眠れたというのか。もしも眠っていたのだとすれば、城に到着するまでの体験はすべて夢の中の出来事だったというつもりなのか。では、その夢はいつから始まっていたのだろう。馬車を乗り換えたときなのか、宿屋を出たときなのか、それともあのホテルで眠っていたときなのか。いずれにせよ、この日記を書いているのは、その夢の中で伯爵の城に到着したジョナサンであり、眠っている間に伯爵の城に到着したジョナサンはまだ日記を書いていない。
いくら夢中だったとはいえ、ここまで微に入り細を穿って(しかも速記文字で)書き記すのは尋常なことではない。これは日記ではなく、旅行記の下書きだったのではないか。そんなことを考えながら続きを読むと、伯爵がこう言った。
「わしがドラキュラじゃ。…などと言うと思うたら、とんだ大間違いじゃ」
そう言って大笑いしている老人と握手を交わしながら、ジョナサンは馭者の馬鹿力を思い出した。
「すると、あなたは一体誰なんですか? ここに来るまでに聞いた馭者の話では…」
「ああ、あの馭者のやつめが、またホラー話をしおったな」
「ということは…」
ジョナサンは、嫌な予感がした。
「わしは何を隠そう、かの有名なホラー吹き男爵なのじゃよ」
――しかし、このとき、暁の光が射し始めるのを見て、ホラー吹き男爵は慎ましく口を噤んだ。
この意外な展開に、作者はあわてて『ほらふき男爵の冒険』をネットで発注した。


コメントする