勇敢な若者であると同時に疾走する馬でもあり目覚めそうな茨姫でもあるジョナサンは誰の背中だか誰の股間だか分からない部分が誰の汗なのか誰の体液なのか分からない液体でぬるぬるして気持ちが良いのか悪いのかも分からない不確定な状態になってきた。このまま事態が進行すれば必ずやこの不確定な状態がより一層ひどくなるに違いないと頭の片隅で確信したのと同時に城に到着したことに若者の目と馬の目と茨姫の耳で気付いた。
ジョナサンは貴族になっていた。長椅子にくつろいでいる貴族の女に。部屋の調度は贅を凝らしたものであったがどこか隠微な雰囲気を漂わせている。荒馬の背で激しく揺られていた名残りなのか空飛ぶ島の城の中にいたときのような微かな浮遊感がある。若者であるジョナサンがべとべとになった服を脱ぎ捨て城の近くを流れる川で水浴びをすると同時に貴族の女であるジョナサンは体の奥に激しくうずくものを感じ始めた。体の外の冷たさと体内の火照りが同居している。足を乗せていた台がもぞもぞと動き始めた。
ジョナサンは家具になっていた。長椅子にくつろいでいる貴族の女が足を乗せるために作られた家具に。家具であるジョナサンはもちろん全裸である。馬であるジョナサンの背中には若者が降りたあとの開放感があったが全裸の家具であるジョナサンの背中には貴族の女がのせた足の重みがある。しかしその感触は心地よい。川の水に潜りその錯綜した感覚を洗い流そうとしたが鋭敏な背中の神経が足の重みの微妙な変化を逐一報告してくるため溢れ出してくる陶酔感をどうしても拭い去ることはできない。あたかも足の主が女神であるかのような有り難さを感じつつ家具であるジョナサンは頭をもたげて女神の御神体に顔を近づけていった。川から出てきたジョナサンは家具の嗅覚で馥郁とした香りを感じている。家具の視覚は妙にぼやけていたが目の前に迫りくるものの形は見分けられた。その匂いに吐き気を催した勇敢な若者であるジョナサンが嘔吐しようと屈み込んで口を開くと家具であるジョナサンの口から驚くべき長さの舌がべろりと出てきた。貴族の女であるジョナサンはその舌の感触を味わい始めた。
ジョナサンは乗物になっていた。長椅子にくつろいでいる貴族の女が足を乗せるために作られた家具が備えつけられている時空を旅する円盤状の乗物に。ジョナサンは少し脚をひらいて陶然とした貴族の女の目くるめくような感覚を乗物の視覚でも追認していた。乗物の遥か下方を流れる地上の風景は目まぐるしく変化している。慌ただしく雪が積もり雪が解け草木が生い茂り枯れていった。昼夜の区別は変化が速すぎて分からない。そんな風景の中に一つの城があった。その城の周辺を取り囲んだ緑色の帯はゆっくりと成長し続けていた。ジョナサンは胸騒ぎを覚え家具は激しく舌を動かし貴族の女は怒濤のような快感にのけぞり乗物は城に向かって急降下しはじめた。それは茨姫が眠っている城に違いなかった。地上にいる勇敢な若者であるジョナサンは裸のまま城の中へと駆け込んだ。


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