――ヽ大法師は、以下のように語った。
何だ。最初から話せだと。面倒だな。分かった分かった。こうしてつべこべ言うておる時間が勿体ない。最初から話してやろう。そもそもは義実公が…。そうそう、その伏姫の父君がだ、そこにおる犬の八房めに「敵の大将を食い殺せば褒美をとらせよう」と、ほんの戯れで仰せになったんじゃ。もちろん戯れ言だったのだが、それをこのずうずうしい犬は真に受けおって、生意気にも駆け引きまでしやがった。
「しからば、魚や肉をたらふく食わせようか」(→ぷいと背を向けた)「それじゃ、職を与えようか」(→無反応)「あるいは、領地をやろうか」(→無視)「それもいらんというのなら、伏姫を嫁にやろうか」(→以下参照)
このときにこそ八房は、尾を振り、頭をもたげつつ、瞬きもせず主の顔を、熟視てわわと吠えしかば、義実ほほ、とうち笑ひ、「げに伏姫は予に等しく、汝を愛するものなれば、得まほしとこそ思うらめ。こと成るときは女婿にせん」と宣はす。
(曲亭馬琴/石川博 編『ビギナーズ・クラシックス 南総里見八犬伝』角川ソフィア文庫)
このド助兵衛犬めが。
――ここまで黙って聞いていた犬神こと八房は、ヽ大法師こと金碗大輔に飛びかかった。
なんだと、こっちが大人しく聞いてりゃ言いたい放題言いやがって、この生臭坊主。元はといえば、あんたがヘマをこいて安西景連にとっつかまったせいで、滝田城が包囲されて絶体絶命のピンチになっちまったんじゃないか。てめえの金玉袋食い破って二個の金玉取り出してやろうか。
――するとヽ大法師が言い返す。
玉なしの犬畜生めが何をほざくか。お前が館山に伏姫様を連れ込んで日毎夜毎に変態プレイを無理強いしていると聞いて駆け付けたあのときに、いっそ撃ち殺してしまえばよかった。
――以下、八房とヽ大法師の掛け合いが続く。
「やっぱりお前だったのか。二つ玉の銃で俺の金玉を撃ったのは。後ろから撃つとは、武士の風上にも置けない卑怯者め」「くたばり損ないが何を言う。あのとき、お前の二個の金玉を撃ち抜かなければ、一体どうなっていたかと考えるだに身の毛もよだつわい。この変態犬」「
ありもしないことを抜かしやがって、この嘘吐き坊主め。あのときは、伏姫に取り憑いていた気を吸い出しておっただけだ。俺の金玉にその気が宿っていたから良かったようなものの、そうでなければ伏姫は流れ弾を受けてしまうところだったんだぞ」「語るに落ちるとはこのことだ。やはり俺が睨んだ通り、そういう淫猥な行為に耽っておったわけだな、腐れ金玉のオカルト犬」「手前勝手に膨らませた妄想で無責任なことを言い触らしやがったな。俺の金玉が弾け飛んで八個の数珠玉になったという流言蜚語のおかげで俺たちがどんなに肩身の狭い思いをしたことか。何もかも全部てめえのせいだぞ。この破戒金玉妄想坊主めが」
世の中に、神(カみ)も仏(ホとけ)もナいものか!
(ラリイ・ニーヴン/小隅黎 訳『リングワールド』ハヤカワ文庫)


【誤字訂正】
誤>> 里見城が包囲されて
正>> 滝田城が包囲されて
訂正してお詫びします。