清水寺の大門で、朝から日暮れまで嫁さがしをしている物ぐさ太郎。みんなは避けて通るのに、一人の女が近づいてくる。年の頃は十五六。粗末な帷子を着ているが、手足の先の美しさを見て、「これこそがさがし求めていた人に違いない」と物ぐさ太郎は思った。ただし残念なことに、大きな鉢をかぶっているので顔が見えない。
鉢かづきは、物ぐさ太郎の目の前まで来て、急に立ち止まった。そこに人が立っていることに初めて気付いたのだった。物ぐさ太郎は着ている服の裾を切り、次のような歌を書いて渡した。
かづけども鉢の中にはさぐられで風吹くごとにうきしづむはな
(あなたはそうやって鉢をかぶっていますが、私はその中のお顔を伺い知ることもできず、秋風が吹くたびに鼻水が出たり引っ込んだりしています)
これを読んだ鉢かづきは、声を立てて笑った後、こう返歌した。
信濃なる浅間の嶽に立つ煙をちこち人の見やはとがめぬ
(このような所では浅間山に立ち上る煙のように目立ってしまい、人に見咎められてしまいます)
そして、鉢かづきは歩きだした。物ぐさ太郎は浮き立つような足取りでついて行った。
大きな御殿に着いた。鉢かづきが裏門から入るのについて行くと、そこには立派な湯殿があった。
「夜中過ぎまで、ここで待っていてください」
そう言い残して、鉢かづきは湯殿の中へ入っていった。物ぐさ太郎は、焚き口の近くにごろりと横になり、鉢かづきが道々語った身の上話を何度も思い返しながら待った。
「太郎さん、太郎さん」
うとうとしていた物ぐさ太郎は、鉢かづきの声で飛び起きた。
「お待たせして御免なさい。こちらへどうぞ」
湯殿の中に招き入れられた。まだ湯気が立ち籠めている。服を脱ぎ、さっそく湯に入ろうとすると、鉢かづきに押し止められた。
「まず、お体にたまった垢を流してください」
言われたとおりにごしごしと擦ると、垢が出た。さらに、ごしごしと擦ると、まだ垢が出た。さらにまたごしごしと擦ると、驚き呆れるほどの垢が出て、垢の山ができた。
物ぐさ太郎は、これだけ垢を落とせばもう大丈夫だろうと湯に飛び込んだが、湯の底に足が届かずに溺れてしまった。すぐに異変に気付いた鉢かづきが助け出してくれたからよかったけれども、誰もいなければ命を落とすところだった。
「死ぬかと思った」
「それも困りますが…」
鉢かづきは物悲しげな声で、こう続けた。
「まさか、こんなことになるなんて」
確かに物ぐさ太郎は見違えるようにきれいになったが、垢を落としすぎて一寸法師になってしまっていた。


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