「今日からあんたが乗せてくれよ」と熊が言うと、馬は「別に構いませんよ」と快諾した。
そんなわけで、禁太郎と河童の姫は馬の背に仲良くまたがっている。ぽっくりぽっくり。
熊には猿が乗っている。のっしのっし。犬神の背には×××姫。すたすたすた。
道中、河童の姫がいろんな話をした。自分が姫と呼ばれているのは大金持ちの娘として生まれたせいであり、河童の社会は王制ではないこと。河童は衣服を着ないこと。河童の雌が気に入った雄を追いかけて抱きつくのは普通だということ。などなど。
ぽっくりぽっくり。のっしのっし。すたすたすた。
猿は、河童の次になまかになるのは、やっぱり猪だろうなと予想していた。しかし、あの鹿の話から、あの勇敢な姫の話につながらなかったことが、どうも腑に落ちない。伏線が何本も張ってあったんだけどな。今こうして俺が考えているということは、このネタは没になったということか。残念だなあ。
ぽっくりぽっくり。のっしのっし。すたすたすた。
夜になった。
ぐーぐーぐー。すやすやすや。むにゃむにゃむにゃ。
もぞもぞもぞ。はあはあはあ。あっあっあっ。
こそこそこそ。ちくちくちく。あっ、いたいっ。
夜が明けた。禁太郎は目を覚ました。きれいに畳んだジーンズはあったが、腹掛けが見当たらない。河童の姫は静かな寝息を立てている。ジーンズをはいて、あたりを捜していると、朝もやの中から×××姫が現われた。禁太郎の腹掛けを持っている。禁太郎は、×××姫が黙って右手で差し出した腹掛けを受け取った。
綻びたポケットが、不器用に繕ってあった。
「直してくれたんだね。ありがとう」
そう禁太郎が言うと、×××姫は右手を差し出した。
「そういえば、禁太郎飴をまだあげていなかったよね」
×××姫は何度も頷いた。
「でも、困ったことに、何が好物なのか全然見当もつかないんだよ…」
すると×××姫は、こう言った。
「××××××!」
「あっ、そうか。その手があったか」
禁太郎は、腹掛けから禁太郎飴を取り出した。
「ほっぺたのところには、××××××が入ってるよ」
×××姫は喜んで、禁太郎飴を食べ始めた。よほど××××××が好きなのだろう、夢中になって、ずっと背後に隠していた左手を出している。その指には包帯が不器用に巻いてあった。
×××姫が繕ってくれた腹掛けを見ながら、今までよく分かんない人だと思ってたけど、いいとこあるんだな、と思っていると、×××姫が腹掛けの下の方を指差して、厳かにこう言った。
「禁×袋!」
やっぱりよく分かんないな、と禁太郎は思った。
“他一篇”は、18:30頃から、適当なBGMを思い浮かべながらお読みいただくと、気分が出ます。
お使いの王子さま
そんなのんきなことを地上人たちが言っている頃、地下宮殿では、ター王子が地上への秘密のトンネルに入ろうとしていた。ナー大王から「地上の様子を探って来なさい」という命を受けたのである。
「一人で大丈夫かなあ…」と、ター王子の父であるマー王が心配そうに言う。
「僕が行くって言ったのに…」と、カー王は不平を言っている。
「まだそんなことを言っておるのか」と、ナー大王がカー王をたしなめた。「お前はこのあいだ、トンネル掘りでとんだ大失敗をしでかしたばかりではないか」
「でも、あのとき崩れた横穴で、なまずのひげを見つけたのは、カー王のお手柄だよ」とノー王がとりなしている。「そのひげから地上の電波が伝わってきて、いろんなことが分かるようになったんだからね」
身仕度を整えたター王子に、ナー大王が小さな袋を手渡した。
「さあ、このお守りを持って行きなさい。これを持っていれば何があっても安心だ」
「はい。それでは行ってきます」
すると、ター王子の母であるサー妃がアドリブで呼び止めた。
「あっ、ちょっと待って! この曲がったキュウリを持って行きなさい。きっと何かの役に立つから」
ター王子は、お守り袋を首からさげ、曲がったキュウリを手に持って、意気揚々と秘密のトンネルの中へと入って行った。
忍び寄る地底人の脅威に、地上人は誰一人として気付いていないのであった。


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