旅を始めてから一週間が過ぎ、そろそろ馬鹿話の種も尽きてきた。禁太郎の一行は黙々と歩き続けている。禁太郎の話を聞いて喜んでいた熊も、「次は俺の番か」と言ったきり、ずっと黙り込んだままだ。
しばらく考えていた熊が「駄目だ。頓智話なんて何も思い付かないぞ」と言うと、禁太郎は「別に頓智話じゃなくてもいいんじゃないかな」と適当なことを言う。「本当に何でもいいのか?」と念を押す熊に、猿と馬も「何でもいいから早く話してくれよ」と答えた。
――そして、やっと熊が語り始めた。
昔、ある森に、一頭の熊がいた。冬になったので、熊は冬眠した。
- 熊が眠っていると、チャリーンという音がした。そのまま眠り続けていたかもしれないが、そのことを熊は忘れてしまった。
- 熊が眠っていると、チャリーンという音がした。今度は誰かに起こされて何だかややこしい質問をされ、それに答えてからまた眠ったかもしれないが、そのことを熊は忘れてしまった。
- 熊が眠っていると、チャリーンという音がした。今度も誰かに起こされて何だかややこしい質問をされ、それに答えてからその誰かをむしゃむしゃと食べたあとまた眠ったかもしれないが、そのことを熊は忘れてしまった。
そして、春になった。熊は空腹なようなそうでもないような妙な体調で冬眠から目覚めた。おまけに、熊の傍らには誰かの死体があるようなないような変な状態になっていた。熊は何だか無性に苛々してきた。
すると、どこからか熊めがけて飛んできたような飛んでこなかったような矢を、熊は身をかわしたような身をかわさなかったような素早い動きをして、弓を構えていたような構えていなかったようなやつに襲いかかって、むしゃむしゃと食べたような食べなかったような腹ごしらえをした。
この森に何頭の熊がいるのかは分からないが、その中で一番不機嫌な熊だということだけは確かだった。
森で一番不機嫌な熊は、トロッコに乗り込んだ。熊を乗せたトロッコは、斜面を下りながら徐々に勢いを増していって、里が近づいてきたときには猛スピードになっていた。
――このように語った熊は、それっきり黙ってしまった。これで熊の話は終わりのようだ。


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